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 お昼。遅めの朝食をとるために、河原町通りへと足を運ぶ。
 この辺りは意外とラーメン屋が多い。毎週日曜日に足繁く通ったとしても、コンプリートするのに1年以上は
 かかるだろう。もっともラーメンマニアではない私はそんなやり込み要素に手は出さない。
 今日の気分で本場長浜ラーメンと銘を打っている、豚骨ラーメン専門のお店に決定。
「ネギチャーシューに煮卵トッピング、麺はバリカタで」
「あいよ」
 そういえば以前、稚彦に、私がラーメンを頻繁に一人で食べていることを言うとかなり驚いていた。
 そりゃそうだろう。ラーメンと女の子は意外性を誘う組み合わせだ。
 しかも、他人から“おしとやか”だの“清楚”だのと言われている私には、似合わない――と、稚彦を含めた
 周りは思っているのだろう。
「はいよ、ネギチャーシュー、お待ち」
 昔気質の職人さんみたいな強面の店主がラーメンを私の前に差し出す。
 いただきます。最初にスープを一口。悪くない。豚骨なのにあっさりしているのが好印象。
 そしてチャーシューを口の中に放り込み、麺をズズズと啜る。
 粋だねぇ――店主が私の食べっぷりを見て笑う。どうも――私は小さく会釈する。
 一人でいるときの私はだいたいこうだ。知り合いがいないから、“振る舞う”必要もない。
 稚彦といるときも、もう振る舞う必要がなくなった。ラーメンについて告白したのはその一環だ。
 だけどそうなると一つの疑問が胸に生じる。こんな私で果たして稚彦は満足してくれているのだろうか。
 稚彦がしたいと思うこと、私にしてほしいと思っていること。それを私はしたいと思うのだけれど。
“お前さんはお前さんのまんまでいいんだよ。自然体でいてくれたら僕はいい”
 とか言うマイ幼馴染み。
 多分、素敵なことを言ってくれてるんだろうけど、それなりにかっこいい台詞を言ってくれてるんだろうけど――
 そういう言葉ほど現実において不自然なモノはないと思う。
 稚彦だって健全な男の子なんだし。付き合ってるんだし。お互いに初体験は済ましちゃってるんだし。
 恋愛の形は物語それぞれで人それぞれで十人十色で千変万化なものだけど、もちろんそれは私も重々に
 理解していることだけど、なんだろう。稚彦の理想というモノがまるで想像がつかない。想定ができない。
 照子さん――アマテラス達が去ったあとも、稚彦は夾都にいる神々との付き合いを続けているようで、
 道真ちゃんやイナリさん、実は肉体的に女の子だったミナカタくん――彼女達と一緒に、祟り神退治をして
 いる。ちなみにりっちゃんもなんだかんだで稚彦にくっついている。
 うん、こうして俯瞰してみると稚彦の周りは女の子が選り取り見取り。そして稚彦は誰とも仲良し。
 エロい稚彦のことだ、過剰なスキンシップを行っていてもなんら不思議じゃない。うん、これはちょっと、困る。
「――えっ?」
 麺を啜っていた箸が止まる。口からスープへ麺の架け橋を作ったまま硬直。
 困る? 困るの? 私。どうして? 不安だから? 不安? この何とも言えない胸のムカムカが不安?
 あ、これってひょっとして“嫉妬”っていう気持ち?
 こういうとき、どうすればいいんだっけ?
「店長」
「あいよ」
「替え玉、バリカタ。あとライス」
 私はいわゆるやけ食いを敢行することにした。

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