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「ぽろりばっかりだと締まるもんも締まらないでしょ」
「稚彦さんのお尻みたいに?」
「僕のお尻は締まってるよ! 締まらなかったことなんかねーよ!」
「そしてお次は、私がお世話になった方々からの花束の贈呈ですっ」
「ふむふむ。プレゼンターは誰なのよ」
「アマテラス様です」
「感動の再会だーっ!!」
「もう涙ボロボロです!」
「泣ける。確かにそのシーンは泣ける……ッ!」
「タケミカヅチなんてこの日のためにわざわざ」
「わざわざ?」
「急な仕事を入れて」
「来ないのかよ!」
「いえ、ミナカタさん亡き今、諏訪を守るのはこのあたしだと……」
「いい奴だなぁ」
 分からない人のために一応説明。十月と言えば普通は“神無月”で、出雲だけは神々が集まるので
 “神有月”と呼ばれている……というのは一般常識。
 しかし史実では、諏訪のタケミナカタだけは出雲への招集に応じないことになっていて、
 それゆえに諏訪の十月もまた“神有月”と呼ばれているのだ。
 そこまでの知識を踏まえた上でのウズメさんのボケである。
「プレゼンター、最後の一人は、影となり日向となり傍でいつも私を支えてくれていた……」
「おおっ」
「雨乃老彦さんの登場です!」
「僕の名前は時間経過に忠実な変化とかしねーよ!」
「ここで私が再びマイクの前に立ちまして、芸能界の引退理由を言うんです」
「えっ、あ、そっか。引退セレモニーなのにまだ言ってなかったな、そういえば」
「はいっ……皆さん、私、天野ウズメの引退に際して、ここで重大な発表をさせていただきます」
「……ゴクリ」
「私、雨乃稚彦さんと、結婚するんです!!」
「いいオチがついたー!!」
 少なくとも、僕にとって。
「ふふふ、というのは冗談ですけどね」
「冗談なんだ! 何処が!? いや、何が!?」
「もちろん、芸能界を目指すっていうほうですよっ、稚彦さん?」
 と、小首を傾げて微笑む姿はなんだか小悪魔みたいな雰囲気で。
 ははぁ、と。僕は感服する。
 ウズメさん、僕のテンションが下がっているのを見逃さず、最後のオチで上げてきたってわけですね。
 がしり――と、ウズメさんが僕の腕に自分のソレを絡ませてくる。
 それだけでは足りないらしく、ぎゅーっと腕に抱きついてくる。
「未来のこととか、わかんないですけど……私は、稚彦さんが大好きです」
 ウズメさんは楽しそうに言う。楽しそうでありながら、その声は真面目さも含んでいて。
「だから絶対に、ずーっと傍にいさせていただきますからね!」
「……うん、僕もずっと、ウズメさんの傍にいるよ」
 僕は彼女の言葉に、できるかぎりの笑みで返す。

 最後に言っておく。この話にオチはない。
 何故なら。

 僕らの話<みらい>は、まだ始まったばかり。

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