死に損ないの僕に、彼女は告げる。

【アマテラス】
「祈れ。お主に残された刻(とき)はあまりに少ない」

【稚彦】
「祈、る……?」

祈る。僕の願い。

今、僕が望むこと。

何もかもが曖昧で、不確定的ではっきりとしない意識の中、
その気持ちだけは確かに、その気持ちだけが、確かに――
明確な言葉として、僕の中に、残されていた。

だから、僕は、その願いを、口にする。

【稚彦】
「……生きたい、よ」

僕の祈り。掛け値なしの、唯一無二の、願い事。

僕はここで、死にたくない。

【アマテラス】
「そうか」

と、彼女は頷き、僕の肩に手を置いて。

【アマテラス】
「ならばその祈り――確かに、聞き届けた」

――軽い衝撃、ただそれだけだった。痛みは、なかった。

いったい、いつからその手に、剣を持っていたのか。
どこから取り出したのか。どのようにして取り出したのか。
僕の目にはまったく映らなかった。

そして剣は容易く僕の胸を貫き、背後へと抜けていた。

突然の凶行に、僕は驚いていたのだがしかし、それ以上に。
自分の胸を刺し貫かれていることなどお構いなしに。

少女の浮かべている表情に、魅入ってしまっていた。

そのあまりに美しい微笑みに、心奪われていた。

薄紅色をした二つの花弁が描く弧に、惹きこまれていた。

ああ、この距離ならば――よく観える。

【稚彦】
「なん、だ…………」

だからに違いない。僕は場違いながらも、多分、笑ってしまっていたと思う。

微笑みに対して、笑みを返してしまっていた。

そして、笑うついでに、愚にもないことを口走っていた。

【稚彦】
「君、すっげぇ、可愛いのな……」

そこで意識が完全に、消滅。

ありとあらゆる全てが白に染まってゆきそして――――