dandelion Record
『あかときっ!−夢こそまされ恋の魔砲−』参加中

















 2月13日。

 魔砲都市から遠く離れた空で、海面に浮かび上がる1つの影。
 それ自体が蛍のように淡い光を発して、自分の位置を見失わないように周囲を照らしていた。
「どうしたものかしらね……」
 空を駆ける影は“Gaia”の名を持つ魔砲器。
 万代爽夏こと私は、ちょっとした物思いに耽りながら遊覧飛行を続けていた。

「もう明日なのよね。あれこれと悩んでいる内に当日を迎えるなんて、私らしくないわ」

 今日は2月13日。そして、明日は14日。
 男の子が色めき立ち、女の子は緊張や期待を胸に抱き、誰かに想いを伝える日。
 知らないとは言えない。忘れていたなんて惚けられない。

 そう。明日はバレンタインデー。
 うら若き男女が色んな意味で甘い匂いをまき散らせる日だ。
 私だって…………当然、例外じゃない。

「本当、どうしたものかしらね……」
 誰もいない夜空で溜息を漏らす。こんな姿、他の寮生には見せられない。

 あげる相手は当然決まっている。
 義理か本命かどうかも、まあ……当然決まっていたりする。
 柄にもなく、妙に気合が入っている自分が恥ずかしくもある。恥ずかしくもあるんだけど、それがまた心地
 良い。
 1ヶ月も前からリサーチを行い、どういうものにするかとっくの前に決まっていたんだけど……土壇場でひっ
 くり返してしまった。

「普通に作ったとしても、真悠人はただ喜ぶだけなのよね。それは普通に嬉しいんだけど……驚いてくれな
 いのは納得いかないわ」

 真悠人は私を理解してくれている。だからと言って、いい方向ばかりに転がるわけじゃない。

 普通に作って渡す。
「へえ〜。料理もそつなくこなすなんて、さすがは……なんて言うわね」
 却下。自分の苦労が伝わらないのはなんとなく悔しい。

 義理か本命かきちんと伝えて、思いっきり豪華に作る。
「そんなこと言って、また俺をからかうつもり……はあ、普通に流されるわね」
 却下。普段の行いが悪いせいだけど、ここまで自分の首を絞めると思わなかった。

 ここは逆に渡さないで相手を焦らす。
「……問答無用で却下。そんなこと、私ができるわけないのよね。見ているだけなんて絶対に嫌」

 他にもあれこれと案を考えるものの、どうにもぴんと来るものがない。
 真悠人を喜ばせる手作りのチョコレートを渡したいのに、私らしくないのはやめておきたい。
 妥協するわけにはいかないし、どうせなら花が咲くぐらいに喜ばせてあげたい。
 私自身のためにも、これからの関係を一歩進めるためにも必要だ。絶対に。

「多分、意識しすぎなのよね。私、ここまで不器用だったかしら?」
 ここ数日、自分でも浮き足立っていると気づくほどだ。
 真悠人が心配して聞いてきたぐらいだから、もしかしたら顔に出ていたのかもしれない。
 その結果、バレンタインの前日は街から離れることにしていたりする。

 敵前逃亡。我ながら赤面ものの対応だ。
 文字通り、からめ手が大好きな自分としては普段なら決して選択しない。

「でも、ここまで離れたからには納得できるものにしないといけないわね」

 今は早朝。
 別に気にしなくてもいいけど、みんなに気づかれないように魔砲都市の外まで出た。
 丸1日もあるんだから、普通に考えたら決まらないわけがない。
 選択肢はいくらでもある。その中から最良の道を選んでみればいい。

「そう。真悠人が一番喜んでくれる選択肢をね、ふふ」

* * * *


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