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    僕は本を買うとまず結末を読む。読み終える前に死ぬと困るから。
                                     恋人達の予感


 最初に言っておく。この話にオチはない。

 三月。つつがなく春休みを迎えた僕らはまぁ世間一般の学生カップルがそうであるように、学生デートを
 重ねていた。
 とはいえ、この四月からは最上級生となるわけだし、いつまでもバカップルをしているわけにもいかない。
 これからのことについて本腰を入れて考えていくべきだろう。
 そんなわけである日のこと。二人で来ていたファミレスにて、僕はウズメさんに切り出してみた。
「ウズメさんの将来の夢って何?」
「はいっ。稚彦さんのお嫁さんになることです!」
 即答である。
「あはははは」
「うふふふふ」
「まぁ、冗談は置いておいといて」
「冗談じゃないですよっ!?」
 まぁ、冗談。僕のほうがね。
「うん、将来の夢っていうと違うかな。僕がウズメさんを嫁に迎えるのは決定事項なわけだし」
「えっへっへ」
「んふふっ」
「まぁ簡単に言うとね、ウズメさん、これからしていきたいって思ってることない?」
「ないです」
「そっかないか」
「はい。私、稚彦さんと一緒にいられるだけで嬉しいです」
「ははっ、こいつめ」
「痛っ。もう、稚彦さんの意地悪ー!」
「さてと、冗談はこのあたりでおしまいにして」
「冗談なんですか!?」
 もちろん、僕のほうが、だ。
「まだ人としての生活に慣れてないだろうし、難しい話かもしれないけどさ。
 でも、これからウズメさんにもちゃんと考えていってほしい話なんだよ」
「これからのこと、ですか……」
 ウズメさんは神妙そうに呟いて、視線を落とす。
 ちなみに、ウズメさんが人として生活する上での社会的問題はクリアされている。
 その点については、信心に秀でている人間と神様サイド双方の協力によって解決された。
 少しだけ具体的に言えば、臥見のイナリさんの伝手を頼っただけなのだが。
 まぁ、神様が視えるのは僕らだけじゃなくて、信仰が失われつつある現代であろうと、昔ながらに
 神々を信じている人は少なからずいて、ウズメさんのことを快く受け入れてくれる人もいたってことだ。
 そうして晴れて人間としての生活を送れるようになった天野ウズメさんは、困ったような顔で笑う。
「難しい、問題ですね」
「だと思うよ」
「稚彦さんは、進学されるんですよね?」
「うん、一応はそのつもり」
 関西圏の国立理系になんとか食い込みたいところだ。
「私は、何処までも稚彦さんとご一緒したいんですけど……私の場合、進学はお金の問題もあるでしょうし」
「大丈夫だよ。夾都から遠くに行くつもりはないし。むしろ今よりも一緒にいられる時間は増えるんじゃないかな」
「そうなんですか? じゃあ今にも増して爛れた生活を過ごせるんですねっ」
「うん。今にも増してイチャイチャしようぜ!」
「はいっ、イチャイチャしたいです!」
 はいはいバカップルバカップル。

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